犬の名前
ワタシが生まれて育った家には、たいてい犬がいた。
ワタシの生まれて育った家の裏は、広い広い原っぱになってて、
後にそこは市に買い上げられて、市バスの車庫になったのだけど、
小学校にも行かない頃のワタシには”世界の涯”へと続く場所に思えてた。
そんな場所だったから、子犬や子猫がよく捨てられてたのだろう。
うちの家のヒトというのが 基本ネコはともかく犬は好き、というひとたちだったので、ひょっこりうちの庭までたどり着いた、小さな犬にはえさを与えたのだろう。
犬もネコも どんなケモノや鳥も おそらくヒトも、えさをくれたヒトを”覚える”ので、また”立ち寄る”。
そんなかんじが繰り返されて、その中で家のヒトが”気に入った”子犬がうちの犬になったのだろう。
ワタシが生まれたときにいた家の犬は「ふく」という名の 茶色いメス犬だった。
「福」をもたらすようにとつけられたそうだ。
今ならせめてハッピィくらいつけてもらえるんだろうけど。
ふくは茶色で寡黙な大きな犬だった。
めったに吼えなかったけど、めったにこちらに関心を示さない。
粛々とひとりの世界を送っていたように思う。
ちいさいワタシはちょっと彼女が怖かった。
だって彼女はワタシよりはるかに大きかったのだ。
ふくの前に居た犬は、「クマ」という名のオスだったそうだ。
名前の由来がわかりやすい、真っ黒で大きな犬だったそうだ。
「クマ」と呼ぶと、「おおぅー」と吼えたそうだ。
長く長く太く太く、けれどかならず応えたそうだ。
クマもふくも きっと相当年寄りだろう、というくらい長い年月をうちの家で過ごして、ある朝突然いなくなった。
2匹ともいつものように、朝、河原に散歩に連れてって、
いつものように鎖を離したら、(当時はそういうちょっとした放し飼いが当たり前だったのだ)、
その日に限ってそれきり帰って来なかった、のだそうだ。
3匹目の犬は ワタシが拾ってきた。
小学校の2年生くらいのことだ。
街の中を ものすごくウレシそうに走り回っていたのだ。
正確にいうと拾ったのはワタシのともだちだ。
彼女はその犬がかわいくてかわいくてしょうがなかったらしく、
家に連れて帰った。
ワタシはそのとき(拾ったときから)彼女と一緒にいたのだけども、
正直彼女のような気持ちにはなってなかった。
まぁかわいいかな、とは思ったけど
連れて帰りたい なんて思いつきもしてなかった。
家に連れて帰って彼女は捨てて来いと怒られた。
日はもうとっぷりと暮れていて、でもそのこはの場で犬を捨てられなくて
私に託した。まぁ いきさつはそんなかんじだ。
ワタシの感覚では【お願い】といいながら一方的に押し付けられた、
っていうかんじにとても近かったんだけど。
犬を連れて帰ったとき、家のひとはちょっと驚いたようだけど、
もともと犬には慣れてた人たちだったから
「まぁいいやんか。うちにおいときぃな。」となって、
そのときから その犬はうちの犬になった。
その犬は 小さくて巻き毛が混じってて、陽気で賢いメスだった。
いつもひとり嬉しげに走り回ったり、笑うように駆け寄ってきた。
成犬になっても小さいままだった。
たぶん 小型の洋犬の血が強く混ざってたのだろう。
名前は「プチ」といって それは拾った友達がつけた名前だったのだけど、
いつのまにか家のひとが勝手に「こ」をつけてて
それからずっと「ぷちこ」だった。
・・・・ぷちこはやたらオス犬にモテてた。
シーズンになると家の前でオス同士が勝手に喧嘩してたりしてた。
本人自体は、目の前で数匹のオスが
時に血を流しながら噛みあい吼えあってても、全然知らん顔だったけど。
お気に入りは一匹いた。
カレも小さめで細めの短い毛の洋犬ぽい雑種で赤い首輪をつけてた。
毎年毎年 シーズンになると夜カレはちゃんとやってきてて、
夜明けまでなにやらぷちこと楽しげに、うちの家の柵越しに話してた。
うちの家にくるために、きっとカレは自分の家のヒトが困り果てるまで、
夜通しわめいたりしてたんだろう。
家のヒトがあきらめて鎖をはずしてくれるように。
ぷちこは永く永くうちに居て、ワタシが学校を全部終えて、OLになって、
結婚して別の場所で暮らしだしても、まだうちに居た。
ワタシが結婚して数年たった朝、いつものように
うちの母が散歩に行こうと小屋を覗くと、
いつものように丸くなって眠ったまま、
もう決して起きなくなってたそうだ。
・・・・・・・犬の名前の話をするつもりだったのに、長々と別な話になっちゃったな・・。
犬もヒトも ひょっとしたら
名前って 自分で”持って生まれてくる”んじゃないかって、
このごろそんな風にも思ったりする。
ところで、犬のしつけは小さいうちからしておいた方がいいですよ。
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